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作品とのコミュニケーションを通じて創造する明るいミライ

MIYASHITA PARKのルーフトップにある渋谷区立宮下公園。芝生を敷き詰めた広場やスケート場や多目的運動施設(サンドコート)などさまざまな一面を持つ公園には、多くの人が集まり、交流の場になっています。その中でも一際異彩を放つ存在が、ボルダリングウォールの上に鎮座するチンパンジーのモニュメント。その作者であるアーティストのWA!moto.“motoka watanabe”さんが考える“人とコミュニケーションする”アートの魅力に迫ります。

―WA!moto.“motoka watanabe”さんにとっての渋谷のイメージをお聞かせいただけますか?

新宿とか池袋に比べて“同世代がいる場所”っていうイメージですかね。家が近所なのもあって、渋谷で飲んだり買い物したりしょっちゅうしていました。


―若い頃から慣れ親しんだ渋谷の街。いまはどんなふうに映っていますか?

「だいぶ変わったな」というのが正直なところですね。でも、やっぱり渋谷特有の面白さは残っているというか……。その辺が、他の街とは印象が異なるポイントだと思います。地元が北海道なんですけど、やっぱり地方出身者としては常に刺激をもらえる場所なのかも。


―MIYASHITA PARKにご自身の作品が展示されることが決まった時の感想を教えてください。

素直に嬉しかったです。限られた人に向けたアートじゃなくて、たくさんの人が楽しめるアートを作りたいなって昔から思っていたので。僕は今までいろいろな彫刻を作ってきたんですけど、彫刻のいいところって“人とコミュニケーションがとれるところ”だと思うんですよ。それが他のメディアとの一番の違い。例えば仏像とかがそうですけど、物とコミュニケーションをとることで自分と対峙することができるでしょ? そういう感覚に近いと思います。しかも自分自身がすごく刺激をもらえるこの街で、この先何十年もたくさんの人に自分の作品とコミュニケーションをとってもらえるなんて、想像するだけでワクワクしちゃいましたね。

―過去の作品でもいくつかお見かけしましたが、今回のMIYASHITA PARKにもチンパンジーをモチーフにした作品を制作した理由を教えてください。

いつも動物のモチーフの作品が多いんですけど、別に足繁く動物園に通ったり特別動物がすごく好きだったりするわけでもないんです(笑)。ただ、人と物がコミュニケーションをとれるっていう彫刻の特性を考えると、動物ってとてもよいモチーフ。中でもチンパンジーは、人間が物とコミュニケーションをする上で必要な能力をすごく引き出せるんじゃないかなって。もともとが人間に一番近いとされている生き物ですしね。


―なぜボルダリングウォールの上に作品を展示したのでしょう?

人がアクティビティをする場所に彫刻があるのっていいなって思ったんです。しかもボルダリング=登るっていう行動自体がお猿さんに近い(笑)。それをチンパンジーが応援しているって、洒落が効いていて面白いですよね。しかも一番上まで行くと、チンパンジーが後ろに隠し持っている金色のバナナがご褒美に見られるっていうちょっとした遊び心も。人と物、人と空間がコミュニケーションできるようにするには、こういう洒落や遊び心も結構重要な気がしているんですよ。


―バナナ以外に枝の先端も金色にした理由を教えてください。

遠くから見たときに輝いているっていいじゃないですか。ベースの黄色自体は年月と共に落ち着いてくると思うんですけど、金の部分は金箔だからずっと金色のまま。あれを作ってくれたのは、富山県の高岡市っていう日本の仏像の一大産地の職人さんたち。伝統的な技術がこういう新しい場所の新しいアートのエッセンスになるっていうのもいいなぁって。


―今回の作品はどのように作られたのですか?

スタートは二次元で設計図を引いていきます。それを自作のCNCマシンである程度形作った後に、熱線で切り出していくんです。熱カットするので、失敗すると一瞬で溶けてしまう。だから作り直すことも結構多いんですよ。今回は原型を作るのに2ヶ月。最終的な鋳造や塗装・設置を終えるまでにさらに3〜4ヶ月。下から見ると小さく見えるんですけど全体で2.8mあるんで、正直作るのはかなり大変でした。


―作品名『YOUwe.』の由来を教えてください。

YOU=“あなた”とwe=“わたしたち”という意味の造語です。立場によって僕らは“あなた”にも“わたしたち”にもなれる。だから人と人とを隔てる物は明確にはなくて、みんな仲間になれると同時にお互いに唯一無二な個としてリスペクトしあおうよ。っていう想いを込めました。この作品自体がそういうシンボルになってくれればなって。多様性とか認め合うってことなんですけど……。平たく言っちゃうと、分け隔てなく応援するっていうことです。


―プライベートでハマっていることがあれば教えてください。

いま一番ハマっているのは落語かなぁ。最近は気軽に聴けるようになったじゃないですか? 昨日も桂 米朝さんを聞いていました。古いものでも新しいものでも、自分の中で残るもの、素直に入ってくるもの、コミュニケーションを取れるものが好きですね。

―ご自身の作品があるMIYASHITA PARK、誰と来たいですか?

子供かな。4歳の子供がちょうど申年なんで(笑)。今年生まれた次男と一緒に、公園で思いっきり遊ばせてあげたい。


―MIYASHITA PARKを訪れた人に今回の作品がどんな風に作用してほしいですか?

アートっていろんな解釈の仕方や好き嫌いがあっていいと思っています。それによって「あれは、なんなんだろう?」とか「あれは熊か?猿か?」とか……。そういうコミュニケーションのきっかけになってくれれば嬉しいですね。

金色に輝く後ろに隠したバナナと右手に掲げている枝の先端。金箔を使用しているため、この部分だけは金色のまま褪色せず。年月と共に色合いが落ち着いたイエローとのコントラストが、この作品の存在感をさらに際立たせてくれそうです。
ずっと慣れ親しんできた渋谷の街には様々な思い出があるという渡辺さん。ちなみに、もともとあった旧宮下公園でのエピソードは「よくレンタカーを借りに駐車場を訪れた」こと。開放感のある新しい渋谷区立宮下公園には「二人の子供を連れて遊びに来たい」と語る優しいパパの一面も。
ボルダリングをする人を分け隔てなく応援してくれるなんとも愛らしいチンパンジー『YOUwe.』。そこには“多様性を認め合う”といういまの時代に必要なメッセージが込められています。

〈プロフィール〉
WA!moto.“motoka watanabe”

彫刻家。1981年に北海道の伊達市に生まれる。2006年武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。主に動物をモチーフとした彫刻作品を発表。人間と彫刻とのコミュニケーションをテーマに、多種多様な素材・技法を駆使し、独創的な作品を多く手がける。

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